ビビリ克服 -後編-

タケムラは心の中で“ここでくじけてはダメ!”と自分に言い聞かせて、今回の問題点と発生原因をお知らせしたのち、その回避方法について説明しました。タケムラとしては、とにかく内容をわかりやすく説明することを考えていたこともあり、だんだんビビリの感情が影を潜めてきました。すると、そのお客さまは、いつしかサングラスを外して、タケムラの顔とカンプを指さす手元を食い入るように見つめながらうなずいておられました。
残念ながら、そのデータは再入稿となったのですが、

お客さま:「問題部分のトコロ、よくわかったわ。データ直してすぐに持ってくるわ。すぐ来るし。すぐやで! 待っててや!」

そう言い残すと、カンプとデータを持って走ってお帰りになりました。タケムラはあっけにとられましたが、お客さまのお住まいはホントに近かったので、約10分ほど経って再びデータを持ってご来社になりました。今度は問題箇所が直っていたので、データの問題が解決されていたことをお伝えすると、今まで見せたことのないホッとした表情をお見せになりました。そして、ご注文内容を確認してからご来社入稿の手続きは終わり、お客さまはお帰りになりました。

それからというもの、そのお客さまがご来社になったときには、タケムラが応対する機会が次第に増えてきて、そのうち「タケムラさん、お願いします」と尋ねていただくことも増えてきました。少し経ってからそのお客さまより教えていただいた話では、オープン当初からいつもナカノ店長に頼んでいたので、違うスタッフに頼むのが不安だったけど、タケムラがビビっている雰囲気はわかったものの、ちゃんと応対してくれることがとてもうれしかったとおっしゃっていただきました。その頃には、後日談を聞いてお互いに笑い合える間柄ではございましたが、そのお客さまとスムーズに応対できるようになったあたりから、他のお客さまと相対する中でも緊張感こそありましたが、ビビリを感じることはなくなっていました。

大分経ったある日、そのお客さま自身のライブへご招待いただきました。渡された紙を頼りに開演前の楽屋を尋ねると、いつものご来社のときに感じられたあの雰囲気が数百倍濃縮された状態のそのお客さまがおられました。周りの空気もピンと張りつめてます。入口近くには当社で印刷したポスターとフライヤーが積まれています。声を掛けるのもためらわれる中で、そのお客さまは私を見つけると、少し笑ってタケムラに会釈されたのちに、立ち上がって、少し大きな声で周りのスタッフに叫びました。

お客さま:「この方がグラフィックのタケムラさんやぞ。いつもみんなの印刷でお世話になってるんや。おう、お前ら、ちゃんとあいさつしといてや!」

06_12_21NO_37.jpgするとスタッフの方々が緊張した面持ちで次々とあいさつに来られました。タケムラは少し戸惑いながらもあいさつを重ね、頑張ってくださいと声を掛けてから、早々に楽屋を後にしてライブ会場に入りました。
そしてライブが始まり、会場は最初からとても盛り上がりを見せていました。でも、タケムラの頭の中は、楽屋に入って軽く会釈をした後にお客さまが発した一言が、頭の中で繰り返し再生されていました。ぶっきらぼうに聞こえるかもしれないけど、楽屋の張りつめた空気の中でお客さまが見せたご配慮に、タケムラの中でうれしさがドンドン込み上げてきたんです。すると、またお客さまの言葉が頭の中を繰り返し再生されるのでした。だから、実はライブの内容をよく覚えていません。この場をお借りしてゴメンナサイm(__)m 
ライブが終わった帰り道でもそのフレーズが頭の中をリピートして離れなかった、暑い夏の夜のひとときでした。



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「ビビリ克服  -前編-」